ドイツ・欧州環境規制動向

I. ドイツの環境規制動向 <I-1/4>

ドイツの原発政策
 現在ドイツの原発依存率は28%である。チェルノブイリ原発事故の2カ月後にあたる1986年の6月に、安全性の問題に対処する機関 として設置さ れたのが「連邦環境省」で、この省の正式な名称には「原子炉安全性のための」という言葉が入っている(正式名称「環境、自然保護および原子炉安全性のため の連邦省」)。

原発の段階的廃止の理由の第1は、安全性である。チェルノブイリ原発事故については、原子炉が旧ソ連の古いものであったためという見方がある。しかし昨年 夏にはスウェーデンのフォルスマルクでチェルノブイリ以来最悪という原発事故が起きた。ドイツのマスコミは連日大きく取り上げ、国民の関心も高く、同様の 事故がドイツ国内で発生する可能性について連邦環境省が直ちに調査を実施した。このスウェーデンの原発事故は西欧の技術によって造られた原子炉で起こっ た。つまり、製造者が旧ソ連であれ西欧であれ、原子炉は事故を起こしうるということである。

第2にコストの問題がある。 まずキロワット当たりの建設費用が天然ガス発電所の5倍かかる。加えて後処理にも莫大なコストがかかる。ドイツでは電力市場は完全に自由化されているため、電力会社にとってはコストがかかる原発は、採算がとれないということになる。

第3に気候保全である。核燃料を使って発電するところではC02を発生しないが、ウランを採掘して核燃料を作る、あるいは後処理という局面ではC02が発 生する。つまり、ライフサイクル全体で発生するC02のトータル量では、原発は再生可能エネルギー(風力、水力、太陽)とほぼ同等である。

以上から、原発廃止という方針は明らかである、というのがドイツ政府の考え方である。
しかし隣国のフランスは原発依存率77%で、ドイツと反対に原発推進路線である。原発の安全性やコスト面、気候保全に関するデータは国境を越えても変わらないため、これは政治的な判断ということになろう。

またフランスの原発産業は国営企業であるため、コストがかかっても国民の税金をそれに注ぎ込むという考え方である。独・仏を比較すると、フランスは原子力発電が多いために、ドイツに比べ確かにC02の排出量は少なくなっている。

再生可能エネルギー利用の現状
原発を減少・廃止させた分については、再生可能エネルギーに置き換える政策をとっており、2006年の段階では全発電量の11・8%が再生可能エネルギーとなっている。

特に風力発電に力を入れてきており、陸上では既に風車を建てる場所が足りなくなってきている現状を踏まえ、今後は海上(オフショア)発電を増やす計画である。
現時点ではゼロだが、2008年からはオフショア風力パークが稼動予定であり、この最初のオフショァ風力パークには5メガワットの風車が12基建設される 予定である。5メガワットの風車は非常に大きく、羽根が回転して作る円の面積はサッカー場1面と同じくらいの大きさになる。

発電方式の外部費用について
例えば石炭を使った発電方式では、石炭を燃やすことによって大気汚染が発生し、それによる健康被害等の被害が生じ、さらには温暖化ガス も発生する。つまり石炭を燃やすことで、燃やした発電所の事業者ではなく、その外部の人間の費用負担となる環境負荷が生じるが、これを外部費用と呼ぶ。
化石燃料を燃やす発電方式の外部費用は大きく、再生可能エネルギーの発電方式は、外部費用が小さい。
 
再生可能エネルギーに、ドイツ政府は年間10億ユーロ単位の巨額の税金をつぎ込み助成しているが、それによって外部費用も回避している。連邦環境省が最近発表したレポートによると、回避した外部費用のトータルは助成費用よりも大きい(図1)
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ドイツでも巨額の税金を使って再生可能エネルギーを助成することに反対の声があるが、これに対し確かに多くの税金を使っているが、回避した外部費用はそれを上回る、というのが政府サイドの見解である。