ドイツ・欧州環境規制最新動向

II. 欧州(EU)の環境規制動向 <II-1/2>

EUの化学品規制-REACH規則の成立

EUでは「REACH」(化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則)という名前の新しい化学品規制が、昨年(2006年)12月にEU法として決議された。REACH導入の大きな理由として、新規の化学物質については規制があるのに対し、約3万種類ある既存物質は、大半が危険性のテストがなされないまま、使用されているという現状がある。


REACHは昨年12月にEU議会で可決され、すぐにEU閣僚理事会で承認、成立した。発効は今年6月1日で、全体で約3,000ページの膨大な条文からなる。これから2012年にかけて、日本の化学品メーカーのみならず、化学物質以外のメーカーもREACHへの対応を迫られる。


ドイツでは連邦環境省ほか4つの政府機関が、REACHに関係する。そこで混乱をさけるため窓口を一本化し、現在、質問のEメール等も代表のアドレスに送ると、適当な部署や担当者に転送されるようになっている。
REACHは解釈が難解であるため、様々なテーマの解釈について、各国の管轄官庁が共同で検討し、その結果をTGp(テクニカル・ガイダンス・ドキュメントとしてまとめ発表している。
業界の対応としては、日本では「JAMP」(アーティクルマネジメント推進協議会)という化学、電気、自動車、部品等の様々な業界を横断的に結集した対策協議会を発足させているが、欧州では今のところ、それに該当する業界横断的な組織がなく、各工業会が個別に対策委員会を設けて対応している。
またREACHは、コンサルタント関連会社等にとって、大きなビジネスチャンスでもあり、欧州全体で様々なコンサルタント会社が「雨後の筍」のごとく名乗りを上げ、サービスを競っている状況である。


消費者・自然保護団体の対応を見ると、まず昨年12月の成立と同時に、消費者団体、グリーンピース、自然保護団体が発表した共同声明がある。

内容については、以下の3点に大きく要約される。


1つ目は「『発がん性や変異原性といった危険な化学物質は、より安全な代替品があっても、消費者向けの製品中に含まれてよい』ことは問題である」という批判。


2つ目は「『難分解性で人体内に蓄積する物質だけは、代替物質が存在するようになったら直ちに代替されなければならない』点は評価できる」という肯定的な評価。


3つ目は「『わずかな量が上市(「市場に置く」という意味)される化学品に関しては、将来も十分な安全性情報が提供されない』のは問題である」という批判である。



廃棄物処理(廃棄物の回収、分別、準備処理)関係については、今回REACHの対象となっていないため、基本的に影響はない。しかし、廃棄物を回収して分別し準備処理したものを、新たに製品として上市した場合は、REACHの適用範囲に入ってくる。 


これについては、以下の2つのケースがある。1つ目は、リサイクル材料を含む再顆粒机やミ
ル破砕物*2。これはREACHでいう調剤に該当し、それが含む安定剤、染料その他の添加剤の年間使用量が1トン以上であればREACHの登録義務がある。

2つ目は、リサイクル材料がcmr物質(発がん性、変異原性、生殖毒性の危険物質)を0.1%以
上の濃度で含む場合。この場合、2010年から多岐にわたる義務が発生する。
ドイツのリサイクル業界は中小企業が多いため、REACHの登録義務やそれ以外の義務を遵守するための人も時間も全般的には不足しており、REACHのために廃業する業者が続出することも予想される。


廃棄物処理に関する専門誌には、「ドイツは循環型社会を目指して、リサイクルに取り組んできたが、REACHのためにリサイクルはこれから難しくなるのでは?」といった記事も掲載されている。


*1リサイクル・プラスチック材料を粒状に加工したもの。
*2 単一の種類のプラスチック材料をミルで細かく砕いた破片。